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和歌山地方裁判所 昭和51年(行ウ)1号 判決 1979年2月26日

原告 有限会社根田木工所

被告 和歌山税務署長

代理人 辻井治 柴岡巌 西野清勝 嶋村源 ほか三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、原告に対し、昭和五〇年四月二八日付でした原告の

(一) 昭和四六年三月一日から同四七年二月二九日までの事業年度(以下「四六年度」という。)の法人税について、所得金額を四〇万五二四二円、法人税額を一一万三四〇〇円とした更正及び重加算税三万三九〇〇円の賦課決定

(二) 昭和四七年三月一日から同四八年二月二八日までの事業年度(以下「四七年度」という。)の法人税について、所得金額を四二五万三三三八円、法人税額を一三〇万〇四七七円とした更正及び重加算税三四万四一〇〇円の賦課決定のうち、所得金額につき五七万一四〇〇円、法人税額につき一五万九八〇〇円、重加算税につき四万七七〇〇円を超える部分

は、いずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  更正処分等の存在とその経緯

原告は、木製品の加工販売等を業とする会社であり、青色申告書の提出につき被告の承認を受けている者であるが、四六年度・四七年度の法人税について、被告に対し別表の申告欄記載のとおりそれぞれ確定申告(青色申告)したところ、被告は、原告に対し、昭和五〇年四月二八日付で同表更正欄記載のとおりそれぞれ更正及び重加算税賦課決定(以下「本件更正処分等」という。)をした。原告は、これを不服として、同年六月三〇日受理をもつて国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、右審査請求を棄却する旨の裁決をし、昭和五一年三月二五日付でその旨を原告に通知した。

2  四六年度の本件更正処分等の違法事由

(一) 被告は、原告の帳簿書類を調査しないで更正した。

(二) 原告は、四六年度の本件更正処分等の理由とされている昭和木工に対する売上除外をしていない。

(三) 被告は、推計課税ができないのに推計課税をした。

3  四七年度の本件更正処分等の違法事由

(一) 被告がした四七年度の本件更正処分等のうち、四六年度から繰越欠損金三七〇万六二三八円の損金算入を認めずにした部分は、前項と同じ違法事由がある。

(二) 右取消を求める部分の更正の理由には、損金算入が認められない合理的で具体的な理由が附記されていない。

よつて、原告は、被告に対し、原告が求めた裁判のとおり四六年度の本件更正決定等については全部の取消、四七年度の本件更正決定等については一部の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因第一項の事実は認める。同第二、第三項の各事実は争う。

三  被告の主張

1  調査の適法性

(一) 調査の経緯

(1) 昭和四八年一〇月、被告は、松戸税務署長から原告が松戸税務署管内の有限会社昭和木工(以下「昭和木工」という。)と取引(以下「本件取引」という。)をしている疑いがあるとの連絡を受け、該事実を確認するため被告の職員に原告の法人税調査を行うよう命じた。

(2) 被告調査担当者は、同年一一月九日、原告の本社事務所(以下「原告事務所」という。)に臨場し、原告経理担当者に、四七年度以前の法人税調査を行う旨を告げ、四七年度以前の帳簿書類の提示を求めた。しかし、同人は、四七年度の総勘定元帳(以下「元帳」という。)のみを提示し、その外の帳簿書類及び原始記録は事務所移転時に誤つて焼却したものか保存していないと申立てて、一切これを提示しなかつた。そこで、やむなく、被告調査担当者は、四七年度の元帳を調査したが、個々の取引内容が確認できなかつたので、原告の経理担当者に関係帳簿等を探しておくよう指示して、同日の調査を打ち切つた。

(3) その後、被告は本件取引につき、銀行調査等を実施した。

(4) 昭和四九年一月一七日、被告の調査担当者は、再度原告事務所に臨場したが、原告の経理担当者は前回同様の申立をなし、帳簿書類の提示をしなかつた。

(5) 同年五月三〇日、被告の調査担当者は、再々度原告事務所に臨場し、原告の代表者根田寧彦に昭和木工との取引について説明を求めたところ、同人は、「昭和木工とは、昭和四七年の五・六月ごろから約半年ほど取引があつたと記憶しているが、現在はない。先方の依頼で東商事の仮名で取引をした。その取引はすべて本勘定に受け入れている。」旨答えた。しかし、右答弁を証する帳簿書類の提示がなされなかつたので、被告の調査担当者は、再度関係帳簿を呈示するよう求めた。

(6) その後、原告から何の連絡もないため、昭和五〇年四月一〇日、被告調査担当者は、原告事務所へおもむき、最後の臨場調査を行つたが、帳簿書類は保存していないとして、提示はなされなかつた。

(二) 調査の適法性

原告は、被告が昭和四七年一〇月及び同四八年四月に原告事務所で調査した際、四六年度、四七年度の関係帳簿を被告の職員に提示したのに、本件調査に際しては、被告調査担当者の再三の求めにもかかわらず、四七年度の元帳の外の帳簿書類一切を提示しなかつた。その後、審査請求の段階で国税審判官に四六年度の元帳及び売上帳を提示している。原告は、売上除外が明らかになるのを避けるため故意に帳簿書類を提示しなかつた。

青色申告制度の趣旨とこれをふまえた各立法の趣旨からみて、青色申告の納税者は、一定の帳簿書類の備付、保存、誠実な記帳とともに、調査に際しては帳簿書類を提示し、その調査を受忍すべき義務もあると解すべきである。

原告の行為は、不誠実であり右義務を履践したものとはいえないのであつて、帳簿書類が滅失する等して保存されていない場合又は調査拒否等により被告において帳簿書類を調査することが不可能な場合には、法人税法一三〇条一項本文の帳簿調査による更正という特典を与えられる余地はない。調査を拒否しながら右特典を主張するのは信義則上も許されない。

2  売上除外

(一) 原告は、四六年度の確定申告に際し、本件取引について左の売上除外を行つた。

入金番号

入金日付

金額

1

四六年 七月二九日

三五万円

2

同年 八月二一日

八六万一四八〇円

3

同年 九月二二日

一〇〇万円

4

同年一二月二八日

一〇〇万円

5

四七年 二月二三日

九〇万円

合計

四一一万一四八〇円

(二) 売上除外と認めた理由

(1) 売上代金取立状況の不自然さ

原告は、紀陽銀行湊支店他四行に正規の銀行取引があり原告名義の預金口座を有しているのに、(一)記載の本件取引代金は、振込人名義を仮名の東商事として、三和銀行南和歌山支店の原告の代表者である根田寧彦個人名義の普通預金口座(以下「根田口座」という。)に振り込まれている。

(2) 右代金が本勘定に受け入れられた形跡がない。

仮に、根田口座を便宜取り立てだけに使用したのだとすれば、その入金直後に入金額と同額を出金し、原告の本勘定に受け入れるのが通常と考えられるが、右口座の入出金状況はこのような内容のものではない。

右普通預金は、少なくとも四六年度の確定決算には計上されていなければならないはずであるのに、原告の四六年度の法人税確定申告書に添付の「預貯金等の内訳書」には、右預金の記載がない。

本件取引は四六年度、四七年度にわたつて継続して行なわれているが、調査した四七年度の元帳の記帳内容にも受け入れの形跡がなかつた。

(3) 原告の態度

原告は、被告調査担当者の再三の求めにもかかわらず、四七年度の元帳の外の帳簿書類等を一切提示しようとしなかつた。

3  推計課税をしたとの主張に対して

被告は、独自の調査により昭和木工と原告との間の金銭授受を確認し、原告の四七年度元帳の記帳内容並びに原告から提出された四六年度及び四七年度の法人税申告書及び決算書の内容を検討して、右金額を売上除外と認定したもので、被告のなした各年度の更正には推計計算は行われていない。

4  四七年度の繰越欠損金の損金不算入について

四六年度の売上除外を理由とする更正に伴い、四六年度の申告欠損金額がないこととなるので、法令に基づく所得の計算上必然的に四七年度への繰越欠損金が零となつたため、損金不算入とした。

5  更正の理由附記について

四七年度分の更正通知書の理由には、原告が損金に算入した繰越欠損金三七〇万六二三八円を申告所得に加算した理由として、四六年度分の更正に伴い同年度からの繰越欠損金が無いこととなつたことが、具体的、詳細に記載されているから、理由附記についての違法はない。

6  原告は、本件取引につき、その売上代金を隠ぺいして、四六年度及び四七年度の法人税確定申告書にその計上を脱漏したものである。

よつて、右売上の脱漏は、国税通則法六八条一項に該当し、重加算税の賦課対象となる。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張1(一)(1)の事実は不知、同1(一)(2)のうち、被告調査担当者が四七年度の元帳を調査したとの事実は否認する。同1(二)は争う。同2(一)の事実は否認する。同2(二)(1)の事実は認める。同2(二)(2)のうち、四六年度の法人税確定申告書添付の「預貯金等の内訳書」に根田口座の記載のない事実は認める。しかし、その記載がなくても、現金入金として計上されているので売上除外を示す根拠とはならない。同2(二)(3)の事実については、調査当時四六年度、四七年度の元帳は存在したが、売上帳は当時見つからなかつたため、他の関係帳簿書類等は昭和四八年六、七月ころ原告事務所が移転した際誤つて焼却されてしまつたために提示できなかつたので、故意に提示しなかつたのではない。

五  原告の反論

原告は、昭和木工への売上を除外していない。

1  記帳方法

(一) 原告は、商品を販売した場合、一般的には、三枚復写になつた伝票を作成する。そのうち、一枚は販売先への納品伝票として使用し、一枚は請求書に添付し、一枚は原告の会計処理に使われる。

(二) 右会計処理用の伝票を利用して、毎月ごとに補助簿である売上帳に記載していく。

(三) 補助簿に記入すると同時に振替伝票を作成し、試算表を作る。右振替伝票は会計事務所に届けられ元帳に転記される。

(四) 現金も右と同様に処理されるが、振替伝票をほとんど毎日作成していた点が違う。

(五) 昭和木工との取引は、同木工の依頼に応じて、東商事という架空の名前で全取引を記帳していた。

(六) 昭和木工からの入金に対しては。同木工から振込連絡があつた時か、三和銀行南和歌山支店から入金連絡があつた時か、現実に預金から引出した時か、いずれかの時点で入金処理をしていた。

2  売上帳への記帳

更正の理由とされている本件売上除外分も売上帳に記帳されている。入金番号2、3に対応する記帳の金額が訂正されていて入金額と差を生じているが、その差は原告の一部転記もれか、昭和木工が買掛代金の合計を誤つて多額を振込送金してきたものかの理由によるが、原告の売上の一部転記もれとすると、その差額分を売上除外と認められてもしかたがない。

3  売上帳と元帳との整合性

売上帳の各得意先別合計と売上元帳の月計別の売上高の年間合計は、後者が一万四六七〇円多いだけである。この差は一二月三一日の前野襖材店への売上帳への転記もれに起因するもので、帳簿は整合している。

4  売上高へ計上

売上高に昭和木工との取引が計上されているのだから、入金の有無を問わず、そもそも売上除外とならない。

六  原告の反論に対する認否

原告の反論1(一)(二)(三)の各事実は認める。同1(五)(六)の各事実は否認する。同2については、売上帳に形式上、東商事の分が原告主張のごとく記載されている事実は認める。

なお、四六年度の売上帳(以下「売上帳」という。)東商事分の当期末売掛残高は二八万〇三〇〇円で、二〇万円以上であるから、確定申告書添付の売掛金内訳書に個別明記されるべきなのに、その記載がない。同売掛金内訳書の一括記載分には「入沢商店他9件」とあるが、売上帳で売掛残高があり売掛金内訳書に個別明記されていないものは合計七件しかなく、三件の差があるから右売上帳は改ざんされたものである。

これに従つて元帳も改ざんされている。

第三証拠 <略>

理由

第一  請求の原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。

第二  本件更正処分等の適法性について

一  事実の経過

<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  昭和四六年七月以前に、原告会社代表者根田寧彦は、昭和木工との取引について東商事という仮名で取引することに、昭和木工側と合意し、売上代金受入のため根田口座を開設した。原告は、紀陽銀行湊支店他四行に原告名義の預金口座を有している。(原告が右各口座を開設し、又は有していることは、当事者間に争いがない。)

2  同年七月二九日に金三五万円、同年八月二一日に金八六万一四八〇円、同年九月二二日に金一〇〇万円、同年一二月二八日ころに金一〇〇万円、翌四七年二月二三日ころに金九〇万円、同年四月二〇日に金五一万七四〇〇円、同年五月九日に金五万四〇〇〇円が、昭和木工から振込人名義を東商事として常陽銀行柏支店、三和銀行松戸支店を経由して根田口座に振込まれた。

3  昭和四七年四月二八日、原告は、被告に対し、昭和四六年度の法人税確定申告を行つた。同申告書添付の「預貯金等の内訳書」には根田口座の預金の記載がなかつた。

4  同年一〇月、被告は、原告の帳簿調査を行い、昭和四六年度分の申告の適否を検討し、同様に翌四八年四月には四七年度分の関係帳簿を調査した。

5  昭和四八年六月、七月ころに原告は、事務所を移転した。その際原告経理担当者玉置が中心になつて不要の書類等を焼却した。

6  同年一〇月、松戸税務署より被告に対し、原告が東商事という名を使つている昭和木工と取引をしているが、原告もその取引を簿外にしている疑いがあるとの連絡があつた。

7  そこで、被告の職員の和田が、原告の所へ指導に行つたが協力が得られなかつた。

8  同年一一月九日、被告の調査担当者中尾信雄が、原告事務所へ調査に行き、四七年度の元帳の内容を調べた。

その元帳には「東商事」や「昭和木工」の記載はなかつた。また、同人は、原告が備えている取引先の電話番号帳に「東商事」「昭和木工」の記載を確認した。同人は、原告の経理担当者玉置勝己に、右に調べた元帳以外の売掛帳とか納品書等の他の書類の提示を要求したが、同人は、焼失したか紛失したかでないと言つて、これを提示しなかつた。

9  その後、被告調査担当者は、三和銀行南和歌山支店で本件取引の調査を行い、右2に記載の各入金を確認した。

10  昭和四九年一月一七日、被告の調査担当者は、再度原告事務所へ調査に行つたが、帳簿書類は提示されなかつた。

11  同年五月三〇日、被告調査担当者は、原告の所へ行き、原告代表者根田に会つたが、同人は、本件取引について明確な説明をしなかつた。

12  昭和五〇年四月一〇日、被告調査担当者は、原告事務所へ行つたが、関係帳簿の提示はなされなかつた。

13  そこで、被告は、原告から提示された法人税申告書、決算書及び四七年度の元帳調査の結果を検討し、以上の経過を考え、原告が昭和木工への売上を除外していると認めて、同月二八日、原告に対し、本件更正処分等をした(被告が本件更正処分等をしたことは、当事者間に争いがない。)。

14  原告は、本件更正処分等を不服とし、その全部の取消を求めて、同年六月三〇日受理でもつて、国税不服審判所長に対し審査請求をなした(この点は、当事者間に争いがない。)。

15  その審査の過程で、原告は、国税審判官に、売上帳及び四六年度の元帳を提示した。

16  昭和五一年三月一六日付で、国税不服審判所長は、原告の審査請求を全部棄却する裁決をなした。

<証拠略>のうち、右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  原告の帳簿について

原告は、本件取引につき売上除外をしていない根拠として、本件取引についての売上帳への記帳及びその売上帳と四六年度の元帳との整合性を主張するので、以下この点につき検討する。

<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  売上帳については、東商事名義関係の記載の用紙と他の取引先記載の用紙が線の太さなどの規格において異なつていて、5月分の記載が東商事分と他の取引先分では字体も異なつているし、東商事分には記載順序に日付の前後があるうえ、東商事の受入金額には訂正された所があり、訂正後は、先に認定した昭和木工(東商事)からの実際の受入金額の四六年度分より数十万円少く記載されていること。

2  四六年度の元帳の売上値引勘定について、東商事分が訂正記入されていること。

3  四七年度の元帳の売掛金勘定口座の東商事分の用紙は他の取引先分の用紙と規格が異なつていること。

4  以上の各帳簿は、いずれもルーズリーフ式であること。

5  昭和四七年一〇月、同四八年四月、被告の担当者が原告の帳簿調査を行つた際には、売上帳等の書類があつたこと。

6  被告の調査担当者が、昭和四八年一一月から昭和五〇年四月までにわたり行なつた本件取引に関する調査に際しては、四七年度の元帳しか呈示されなかつたこと。

7  国税不服審査の過程で、原告は、四六年度の元帳と売上帳を提出したこと。

8  売上帳の東商事分の期末売掛残高は二八万〇三〇〇円で、二〇万円以上であるから、四六年度の確定申告書添付の売掛金内訳書に個別明記されるべきなのに、その記載がないこと。

右売掛金内訳書の一括記載分には「入沢商店他9件」とあるが、売上帳中の売掛残高があり右売掛金内訳書に個別明記されていないものは合計七件しかなく、三件の差があること。

以上の事実及び<証拠略>を総合すれば、本件取引のことで被告の調査担当者中尾が原告の所へ初めて調査に行つた昭和四八年一一月より後、原告が国税不服審査請求をなしたころまでの間に、原告の経理担当者玉置が、そのころまで残つていたメモ等何らかの書類を基に、売上帳については期末売掛残高が少ない得意先四件分を売上帳より除去して東商事一件分に置き換え、その記載内容は売上帳記載の各月の各売上合計金額が四六年度の元帳となるべく整合するように、また、期末売掛残高も売掛金内訳書の一括記載分として整合するように改ざんし、同様に四六年度の元帳の売上値引勘定にも東商事分を訂正記入し、四七年度の元帳にも東商事分の記載をなし改ざんしたものと推認できる。右認定に反する<証拠略>は他の証言部分と矛盾するなどで信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  帳簿を提示しなかつた事情

例え事務所が移転した際に不要書類を焼却したとしても前記認定のように、原告の経理担当者玉置がその際焼却に当つたことを考えれば、四六・四七両年度の元帳及び後で出てきた売上帳の外はすべて焼却してしまつたという原告の主張自体かなり不自然であること、前項で認定したところによれば、本件取引の調査後、何らかの書類を基に売上帳等へ東商事分が記載されていることを合わせ考えると、被告の本件調査時点でも関係書類が存在したものと認められる。このことと、原告は、四六年度の元帳は提示可能であつたとしながら、これを提示せず、かえつて前項で認定したごとく原告は後に帳簿書類の改ざんを行なつていることを総合すれば、原告が被告調査担当者にその書類帳簿を提示しなかつたのは、故意によるものと認められる。

四  売上除外の有無

二、三項で認定した事実、根田口座を開設したことが不自然なこと、原告は、四七年度の売上除外を争つていないが<証拠略>によれば、原告が四七年度の売上除外を争わないのは、単に四七年度の売上帳がないということではなく、国税不服審判所で原告の主張が明確に排斥されていることによるものと推認できること及び<証拠略>を総合すれば、原告は四六年度の確定申告にあたつては、昭和木工(東商事)に対する本件取引につき、売上除外したものと認められる。

五  帳簿調査について

原告が青色申告の承認を得た内国法人であることは、当事者間に争いがないが、「税務署長が内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正するには、その内国法人の帳簿書類を調査し、その調査により当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り、これをすることができる。」(法人税法一三〇条一項本文)ところ、一項で認定した事実関係によれば、被告は、原告の四七年度の元帳を調査したのみで、他の帳簿書類を調査せずに銀行調査等により本件更正処分等をしたものということができる。

被告はこの点につき、被告の再三の求めにもかかわらず故意に帳簿書類を提示せず、義務を履行しない原告には、右法条の特典を与えられる余地はないと主張する。しかし、帳簿調査によらなければ更正されないという特典は、青色申告者の記帳促進と連なる青色申告制度を構成する基本的な一要素であり、明文規定にも反する該特典喪失を安易に認めるべきではない。したがつて、四六年度の帳簿書類の調査がなされていない以上、被告は、原告に対する青色申告の承認を取消した上で本件更正処分等をなすべきであつた。してみると、四六年度の帳簿書類を何ら調査せずにした本件更正処分等は、その帳簿調査をしなかつた点において不十分であり、かつ、青色申告の承認を取消すことなくした本件更正処分等には、その手続において瑕疵があると言うべきである。

もつとも、青色申告の承認が取消された場合は、これが取消されなかつた場合に比し不利益処分をうけることになるので、青色申告の承認が取消されなかつた瑕疵は原告にとつて利益な瑕疵であるともいえるところ、前項で認定したごとく、原告には、被告主張の売上除外が認められ、本件更正処分等の内容は実体的にみて正当なものであること、一、三項で認定したごとく、被告の再三の求めにもかかわらず原告が故意に関係帳簿書類等を提示しなかつたこと、被告は、四七年度の元帳の調査をなしたほか銀行調査等で本件売上除外が認定できたこと等の事情の下では、右手続の瑕疵は本件更正処分等を取消すに足りる程度の違法事由には該当しないし、原告が、自ら右手続の瑕疵を主張して本件更正処分等の取消を求めることは信義則にも反し許されないものと解すべきである。

六  推計課税について

原告は、被告が推計課税を行つたと主張するが、一項の13で認定したごとく推計課税は行われておらず実額として課税されており原告の右主張は失当である。

七  四七年度の繰越欠損金の損金不算入について

この点は、前述のところから明らかなように、四六年度の売上除外による更正に伴う計算上当然のことであり原告の主張は採用できない。

八  四七年度の損金不算入部分の更正の理由附記について

<証拠略>によれば、四七年度の更正処分等の通知書には「同時に更正した前事業年度の所得金額が四〇五、二四二円であり、繰越欠損金がないので当期に損金算入が認められない。」旨記載されており、理由附記としては十分であつてこの点に不備はない。

九  原告は、前述のとおり、本件取引を隠ぺいして、四六年度及び四七年度の法人税確定申告書に右売上の計上を脱漏したものであるから、国税通則法六八条一項により、本件各重加算税を課せられるべきことは明らかである。

第三  結論

よつて、被告のなした本件更正処分等には取消すべき違法事由がないから、原告の本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 惣脇春雄 川波利明 山口修)

別表 <略>

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